旧市街の中では綺麗な一室の硬い机の上で少年は目を覚ます。暗い壁が映る窓が目に入り体が横になっているのに気づく。
背に枕が入っている、体を起こそうと体に力を入れると腹が痛み反射的に身を丸めるようとすると背中に裂けるような痛みが走る。息をする体の動きひとつまともに出来ないほど痛い。

「動かないほうがいい。」
 少年が横たわるベッドから離れた簡素な椅子に腰掛けていた白い狩人の男は混乱しうめく少年に声をかけた。

 少年は男の声が聞こえ恐怖で身がこわばる。緊張し耳が遠くなる。

「か、返せ…っ」
 少年はかすれた声を上げながら包帯と体液が染み出ている当て布だらけの体を起こし立ち上がる。狩人はその様子を目で追う。
「何を?」
 狩人の問いを無視し壁伝いに這うようにのろのろ歩き棚の上の手当てに使い消毒していた小さなナイフを手に取る。
 狩人はその様子只みていたが殺気を感じ椅子から静かに立ち上がる。
 少年は勢いよくとびかかるが避けられ、その勢いで倒れそうになる肩を白い男が支える。
 少年はナイフで肩を払い手をふりほどく、男に向き直り両手に持ったナイフを突きつける。

 お互い対面する。必死の形相で睨んでいるのは少年だけで、白い男はただ見ている。

「…っ……」

 硬直状態になっていたが、少年は傷が痛むのか肩で息をし顔も剣先も徐々に下がる。

「ナイフを置いてベッドにもどれ」
 白い男は命令口調で少年を諭す。
 少年は首を横に振る。
「俺を刺してどうする、胸の傷は自分で刺したのか?体のアザと火傷は……
 言い終わる前に少年はナイフを片手に持ち替え再び刺しにかかる。白い狩人の男は無表情のまま左手でナイフの刃を握り止めた。
「いいかよく聞け、俺は妖魔狩人だ、お前のよく知ってるだろう男から依頼された」
「……っううう」
 少年は眉間にしわをよせて、歯を食いしばりうなりながら必死にナイフを引き抜こうとする。血が出るばかりで動かない。
 男の血が柄を超えて少年の手が真っ赤に染まる、すると少年ははっと我に返ったように手の力を緩めるた。
「それでいい」
 狩人は少年からナイフを取り上げる。
 眉間にシワをよせ目を瞑ると少年はこうべを下げへたり込む。息を荒げ喉から搾り出して訴える。

「いたい」

 この少年は半妖だ。
 少年から妖魔の気配はたしかにする、怪我の治りがまともな妖魔とくらべ遅くひどく弱い。狩人はあのときの自分の間違いを認めた、死にかけ、更に半妖の気配は彼にとって初めての経験だった。
 どうしたものかと狩人は考える。彼が殺していいのは半分までで人間は殺してはいけない、そうやってしつけられて生きてきた。

 少年は下を向いたまましゃがみこんでいる。
 座り込んだ首筋の大きめの服の隙間から背中の火傷を包む当て布が見える。包帯と当て布の無いところには青黒い痣と、治りかけのうすい黄色い痣だらけ、文字や数え痕のような切り傷、皮膚に隙間は無かった。それに加えて……。
 狩人は左手に食い込んだナイフの刃に目をやる、右手に持ち替えて止めを刺して死体をあの屋敷に持っていく。こいつは半妖だと言えば何事もなく狩りは終わる。自分が罪に問われることはない。
 その考えの最中、依頼人のあの薄ら笑いの貴族の男が浮かんできた、下男から話を聞く自分を“観察”する男の顔。悪趣味の道楽に付き合わされたと思うと腹が立つ。
 それに妖魔の死体は焼かれて砕かれなければならない、そういう決まりだ。あの男の元に行くこの死体は、ちゃんと処理されるのだろうか。


「……疲れたのか?」
 青い髪を垂らしうつむいたままの少年の頭が少し頷く。
 少年はただ待っていた。

「なら、ベッドにもどれ」
 そう言い捨て少年に背を向ける。
 左手に食い込んだナイフをはずし適当な布を巻きつけ止血をする。
 血のついたナイフは元の棚に戻す。消毒してあったナイフから除けて置く。少年の前から刃物を片付けたりはしない、自分ですればいい。
「好きにしろ」
 頭巾の付いた外套を羽織り部屋から出て行く、戻ったとき彼が死体だったなら屋敷に成果として持って行く。


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