鐘の音が鳴り響きウィルは目が覚めた、日没でも、火事でもない。
 布団から起き上がると隣ベッドにジンが居た、長剣を手入れに出していたらしく刃を確かめていた。
 ウィルは窓に向かい外を眺めた、ここは二階で人の流れがよく見える。
 多くの人が一方に向かい、その人々の表情にウィルは、何か、胸に不快感がよみがえるようなザラついたものを感じた。

「罪人の処刑だそうだ」
 窓の外を真剣にみつめるウィルの疑問にジンが答える。
「……ど、こで」
「広場、薪が組んであった……首切りではなく、火あぶりだ」
「なんで、火?」
「教典を読んだことは?」
 首を横に振るウィル。
「……見物にでも行くか?」
 更に強く首を横にふる。
「わかった」
それ以上ジンは何も言わなかった。

その旅から家に帰ってきたのでウィルはさっそく教典を読んでみた。

 今までの読み物の中では一番言葉の言い回しが難関だった。しかし、生きるということの教訓のような、これはきっと善い読み物なのだと最初は思ったが、何のためかよくわからない決まりやルールが散りばめられてもいた。いい話の教訓だけではいけなかったのだろうか。

 その決まりのひとつには人は土葬で、死体は大切にするものだと書いてあった。人の体は焼くと死後の世界でも薪のように燃え続けるのだという。

 草木や家畜や妖魔は燃やす、人は燃やされない。
――燃やされると、人ではない。

 燃やされ骨になる程度のことで人というなにかが変異するとは到底思えないとウィルは思った、そのことを食事中にジンに伝えた。ジンはこういう形の無い問答はたいていウィルの主張を静かに聴いているだけだったがひとことだけ
「俺もそう思う」
とつぶやいた。


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2015.05.03
妖魔狩人は狩りを失敗して死に連れや引き取り手が居ないと火葬、妖魔と人を間違えても火刑