ジン……妖魔狩人の男、人間、白髪、無愛想
ウィル……ジンが拾った半妖の少年、言葉がやや不自由だが素直
まだ昼にもかかわらずウィルは町の宿屋に着くとベッドでぐっすり眠っている。
ウィルは山奥のジンの家で体の傷を癒し、読み書きを覚え過ごしていた。
ジンはその間も頻繁に狩の旅に出かけていた、家に居る間は体の治癒具合と読み書きの成果を確かめるのと、ウィルから抜け落ちている“話す”という事のために口語の多いやさしめの本を読んでいた。
しかし、読み書きに比べ話す行為はあまり上達しなかった。ジンが旅に出ている間は考えて、話し、伝える行為を全くしないからだった。
会話が上達せずともウィルはジンの話を聞くのが好きだった。
なぜ?と聞けば本の話の道がいくら逸れようと答え、知らなければ分厚い本で調べ、分からなければ落としどころまで一緒に考えてくれた。
何かを本の文字ではなく人の口からでる言葉で知るということは彼にとって幸福だった。
半年経ち、ウィルは歩けるようになり、走れるようになり、家事が出来るようになり、ジンを手伝った。居ない日も掃除した。
ウィルはわからないことがあればしつこく、ちくいち聞いた。聞いたことを忘れず守るので、ジンもおなじくらい雑巾の絞り方からちくいち、しつこく教えた。
ウィルはジンが旅に出る日は気が重かった。
しかし、今の自分の足では彼の歩みについていくのは無理だろうと理解していたので、毎日山間を走り足を鍛えることにした。
足に力がつき荷を背負い歩けるほど力がついたら頼んでみようと思った。
一度目は断られた。
二度目はジンの中で考えが出来たのか旅についてきてもいいと許可してくれた。但し、だだをこね腰を下ろすような真似をしたら容赦なく置いていくという条件をつけて。
ジンは歩くのが早いだけでなく、夜も少しの光が出ていれば歩き続ける日もあった。
ある日、ウィルは険しい山道で疲れて足の力が抜けへたり込んでしまった。
置いていかれるのが怖く早く起き上がろうとする隣でジンは待っていてくれた。
ウィルが何とか膝に手を当て立ち上がるとジンはその腕をとり半ばウィルを引きずるような形で山を超えた。
旅は厳しかった。
休むときは昼夜問わず、今日のようにすこしでも多く眠り体力を回復する必要があった。