2週間経ち、少年の背中のぐずついていた所は膿が抜け弾力を持ちはじめ腹の傷も見た目はくっついた。ただし、どちらの傷も大きな跡が残りそうだった。固形物も食べ始めた、少年はたとえ動物のだろうと血肉は嫌いらしい。
体力も戻ってきた少年にジンは言おうと思っていた提案を語る。
「ここから北の山麓に俺の家がある、家で代々しつけていた山犬がそのあたりをうろついて番をしているし、何もないから、人も近寄らない」
ジンは窓のほうへ目線を向ける。
「この町も静かでいい、ただ他の狩人がここに立ち寄らない保証はない。俺がこの町の仮家に来る事を知っていてたまに手紙を残していく奴もいる」
少年はベッドから起き上がり壁に背をつけジンの話を聞いている。
「近くは無いが、歩けるようになったらお前をそこへ連れて行きたい」
「……」
「怪我が治って自分の身を自分で守れるようになるまでは必ず、俺がお前を育て守ろう。そのかわり二度と自分の腹を自分で刺すような馬鹿なマネは――」
自分に言い聞かせるような強い口調で言ったので、少年が膝を抱え不安そうに話を聞いているのが目に入り、ジンは言葉を詰まらせる。
「もう、あんなことしないでくれ……いいか?」
ジンは今までで一番子供に対するまともな態度で尋ねた。
「あと……お前の名前を考えていた"ウィル"だ、字はまだ書けないだろう?この字なら練習しやすい」
ジンは羊皮紙の切れ端にペンを使い大文字で少年の名前を書いて渡した。
ウィルは両手で小さい紙を受け取り眺めた。
「……」
「これでウィル、だ」
「ウィル?」
「ああ、これからそう呼ぶ」
「……」
ウィルは手元の紙から顔をあげ、ジンの顔を見る
「……俺か? おまえの好きなように呼べばいい」
◀前
終
2015.05.29/修正20151005/修正A20160111