なにか見える、
門や扉はない
店、本屋?がある
主をなくして世界の体をなしていない、
避難場所にはならない壊れた捨てられた世界にも門はない
たぶん同じような場所かと思ったら、ここはまだしっかり形と場所がある。
主がいるんだろう。

店先に本のラックと丸椅子がある、
せっかくなので休んでいこう。
もう、正直出かけたくない、この世界からは道が出ていないし、
ここから出て、また誰かの世界や道に当たるのかはわからない、
わからないし自分が何をするのかも、分からない。

考えが上手くまとまらないまま
おそらく地名?が題名になっている本の一巻を手に取り腰を下ろし読み進める。
旅行、観光日記といった物語だ。
とても気楽で楽しそうだ、主人公は強い
門が閉じていればこじ開け、領主にもてなさせるし
ドドメで孤独にキャンプファイヤーをしていて
通りすがったドドメの悪魔にちょっかいを出し酒を飲ませてつぶして逃げる、
何が目的というわけではない、でも自由奔放でどこへでもいける。

私には多くの門が閉じられている、いるけれどまだ歩ける。
本当に…白く暗いドドメの中でこんな、
うざったいめんどくさい悪魔が一人キャンプでもしてないだろうか。
ここみたいに開いている世界があるかもしれない、
そう思わせてくれるには十分な希望や熱をこの本は持っていた。

(このシリーズを読んだら出かけよう)


読み疲れて居眠りをしていたが誰かの気配を感じて目を覚ます。
本のラックの前に溶けたドドメの悪魔が立っていた、
黒く崩れた体で無い口で呟いている、聞き取れない。
感じるものはといえば むなしい らしい。
それはしゃがみ一冊の本を手に取ると足音無くうめき声だけあげて去っていった。

万引きだ、どうしよう……だれか店員に言おうか、
しかし下手に領主に勝手にここに居ることを処罰でもされては困る。

(……まぁ、いいか)

店のすりガラスがはめ込まれた古い引き戸を軽くノックし、
返事は無いが中に入る。
中も本棚だらけでだ、よく見ると背表紙の著書には全部同じ名前が入っている。

“Leda Ravarassis”

そういえば外においてあるのもそうだった、
ここにある本全部?

小さなカウンターに山羊頭の獣人が椅子に体育座りして目を閉じている、
カウンターには紙切れとペン、入っていたコーヒーがどす黒く干からびたマグカップ。

「この世界の主はこの著者のコレクター?」
「私だ、レダ・ラバラジスは」
「…あなたが?」

目を開け、山羊はこちらを見上げる。

「ああ、ちなみに、ここは私の世界だ」
「開けっ放しで……さきほど本、盗まれていましたよ」
「ここは貸本だから……別にかまわない」
「貸した名簿は」
「そんなものはない」
「本は…帰ってくるんですか」
「どうだか」

彼は興味なさそうにまた眠そうに目を閉じる。

「……この本の主人公、誰ですか」
「これらは私の日記と手記をまとめて製本したんだ、
 信じなくてもいいよ所詮ここにあるのは過去の読み物でしかない」
「もしかしてこの量を…手書き?」
「いかにも、ここの地下に製本室がある」

蹄の付いた足で狭いカウンターのなかの床をゴンゴン叩く
タイルの一部に手をかけるへこみがあり彼がどけば床が開きそうだ。

「貸すなら返されないと……困るんじゃないですか」

この本は彼の一部で、
記憶や思い出が入っている、悪魔が形を保つために必要なもので、
ドドメの悪魔が持っていれば身が崩れるのを遅らせることが出来る。
だから持ってかれてしまう。
でも、彼はこの世界に門を作ったり、
本を大事に保管したり管理などは自分からは一切しないだろう、
あの本の主人公なら。

「……ふむ」

山羊はこちらをゆっくり瞬きしながら見つめる。

「困るな」


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2014.04