小川の行き先


 午前の青空の下でウィルは小川で川漁師の真似事か、魚獲りをしている。
 小さい石橋の下の日の陰になる場所でせっせと石を組み流れを狭め、木や蔓で組んだ網を構えている。自分では魚肉はめったに食べないのに。

 石橋まで歩いて行き静かに腰を下ろす。集中していて周りが見えていない、川底へ色互いの両目を光らせている。川辺に置いてある桶の中にはまだ釣果はないようだ。

「ウィル、おまえはどうやって金を稼ぐ」
 いきなり声をかけたのでウィルははっと顔を上げ、きょとんとした。眉をよせて考え、ろくに食い扶持を稼ぐ仕事を持たないことを俺に謝った。
「そういうことじゃないんだ」
 家事全般、野良仕事、読み書き、計算が出来る。喉、声のこともあって他人に言葉が足らないのがたまにキズだ。でも俺に対して、つまり知った仲ならずいぶんお喋りだ、根のところで愛想がいい。きっと何処でもそれなりにがんばって生きていける。

 今聞いた言葉の本当の意味は理解しているのだろうか。
 口をぎゅっと結ぶこの顔を見ると理解している、と思いたい。口に出して言いたくなかっただけで俺もこんな回りくどい聞き方をした。

   ***

 これからジンさんが言う事は聞きたくなかった。耳を塞いでやろうかとも思うくらいに、でも出来なかった。網を持って立ちすくむことしか出来なかった。
「いつかおまえに家の……本、備品金物、いや、全部だ、もらってほしい。無駄遣いしなければ十分だと思う」
 小川のせせらぎも風音も小さく、やさしい声を掻き消すには至らない。
「ここを捨てて全部カネにしてどこかに隠れ住んだり自由に旅をしてもいい。……できるな?」
 ジンさんはこっちを見ないで川の先を眺め話していた、橋の下からは逆光で表情までよく見えない、でもいつもの顔じゃない……気がした。
 黙ったまま何も言わない僕に返事を求めることもしない。見上げるのをやめて、ジンさんに背を向けて同じ方向の川の先を眺めた、日のあたる水面の反射は眩しい。少し痛い。

「……魚とるなら自分でもちゃんと食べろ、あと終わったらちゃんと石囲いは崩しておけ」
普段どおりの厳しい声が聞こえ、身じろぎの布切れと立ち上がる音がする。振り向けないし返事もろくにできなかった。


 
2016.03.23_20150514下書き