ジンの一人称視点
妖魔の気配でここ二ヶ月上手く眠れない日がある、どうにも神経が昂ぶって寝付けない。深く眠れたと思えば、胃の底に冷水をあてられたような悪寒と共にビクリと目が覚めることもある。
眠れずとも体だけでも休めようと目を閉じ寝床に収まる、考え事をしながら。二日前の夜のことをおぼろげに思い出しそのことを考えながら。
今日と同じように、眠れずにベッドに沈んでいた。
ただ横になっているのも中々に苦しいもので、気を紛らわす為に水でも口にしようと起き上がり調理場の水瓶に向かう。
壁つたいにゆっくり歩いていく、室内は窓からの月明かりも無い暗闇だったけれど物の輪郭はごくわずかには見えるし、自分の家だ迷うことは無い。
目的の部屋の手前まで来た、眠れない原因が半開きの調理場の扉の向こうに居る。水瓶の上蓋をずらす音と柄杓を置くカランと音がした、ウィルが俺と同じように水を飲み来てたらしい。
俺も調理場の中に入ろうと扉のありそうなところに手伸ばした、扉は完全に閉まっておらず取っ手をつかまずとも抵抗も音もなく半開きになった。
すると小さくすすり泣いている声が耳に入ってきた。
泣く声はすぐ止まった、泣き叫ぶ声を出さないように口を手で塞いだのか、えづきに近いシャクリをこらえるような小さいうめき声が聞こえる。
扉の側に居た俺に気づいて怒られるとでも思ったのか、部屋に居て寝ている俺を起こさないようにしたのか。暗闇の中、机の脚の下の側ですくみうづくまる体がうめき声と一緒にかすかに動いていた。
自分の部屋に戻る。もうベッドに戻る気は起きず、ソファに腰を落ち着けた。
ウィルには声をかけることが出来なかった。
……彼を、哀れに思う気持ちもある。たださっきあの姿を見て自分がまず感じていたのは“失望”だった、彼になぜかガッカリした。
人間だったら、ましてや子供だ。心身ともに痛めつけられればああなるのは理解できる、同情心だって持つし適当ななぐさめだって簡単に言えた。
でも彼の半分は妖魔と言う化け物だ、人間なのは半分だけ。
それは人間とは呼べない。
だから失望した。陵辱されてメソメソ泣くのではなく体が回復してきたのなら早く彼にこんな体にした奴を殺しに行くとでも言って欲しいし、もっと人間を憎んで欲しいとも思う……それかは……
「…………」
俺はウィルに何を考えているんだろう、正しくはウィルにではなく妖魔に。人間からかけ離れている内面を感じたかったのかもしれない。
答えの出ない物思いをやめ体をほぐそうとベッドの中で大きく伸びをする。
半分の妖魔の気配はあいかわらず感じる、気にしないようにするには慣れるしかないんだろう。
終
2015.12.30_下書き20151223/書き起こし20151227