空きの酒瓶

ジン……妖魔狩人の男、人間、白髪、無愛想、アル中ではない。
ウィル……ジンが拾った半妖の少年、本好き、欲しい。


 ウィルは屋敷の中の何度に大量にあるものを見つけたのでジンに聞いてみた。
「納戸の空の空き瓶どうしたの?」
 十や二十ではなく二百以上はあったのだ。
「まぁ……飲んだら、空くよな」
 つづけてジンは「大昔のもある、全部俺じゃない」と小さく言い訳をいれた。が、現に半地下の食糧貯蔵庫には酒瓶が一人で飲むにしてはかなりの数納められているし、本数が減ればいつのまにか、増えている、瓶だけでなく小樽までいくつもある。さすがにおおきい樽はなかった。


***

 ジンは酒が好きで旅先の酒場でも、もくもくと飲む。狩人の仕事で得た金は半分以上旅費の宿代、食事、装備に消えて行くが酒とタバコにも消えて行く。
 酒場では隅で目立たないようにひたすら飲む。飲み比べをフられるときもある、大抵ほうっておいてくれと断る、いい酒だけをたくさん飲むのが好きだった。酔うために飲んでいるのではない。
 一度馬鹿なことをした。ウィルとの旅で、宿が付いている酒場で宿を借りた時だった。
 階段下の暗がりでローソクを時間制限にして、酒は飲まず毎日チェス布を広げにくるというご老人とウィルのチェスを離れて見守りながらいつもどおりに飲んでいた。
 そのとき飲み比べをもちかけられた。断ろうと思ったが「今晩の賭けの種にさせてくれ、礼はする」と勝手に盛り上がってる粗野な客と店主と詰め寄られた。
 それでもジンは断ろうと思ったが、宿を借りている手前と、お礼のモノが思っていたよりそそられたので引き受けた。

 チェスの終わったウィルは場に口を挟めそうにないので先に部屋に戻り、ベッドに入り下の騒ぎを聞きながら眠った。

 酒の勝負が終わり酒場の客が減りが静まりだしたころジンは部屋にもどった。
 いつもどおり無表情だったが顔が首と耳まで真っ赤だった、そして希少な酒を譲ってもらった!と中ぐらいの酒瓶を眠っていたウィルをゆすり起こし見せびらかす。酒の分からない彼にえんえんと自慢する、顔も声の調子も普段と変わらないが饒舌だった。
 一人話し終えて満足するとベッドに入り、いつになく酒臭く無防備に寝た。寝ている間に二度ベッドから跳ね起き、外へ走って吐いていた。

***


「あれだけの数をみると……」
 二人は歩きの旅なので家から瓶を多くはもてない、狩りの旅は急ぎの旅でもある。
「全部売るのはムリだ、ただ……」
 ジンは小さく肩をすくめ、声低くウィルにささやく。
「割れていなくて、酒のラベルが綺麗に残っていて、ヴィンテージのものは、酒屋でバカ高く売れる場合がある。カウンターでなんか出すな……裏口からコッソリ売りに」
 ウィルはなんで?と言う顔をしたが、すぐ納得した。
「旅荷の中に瓶を入れて町に付いたらそれをする、瓶を選ぶのも、ホコリをゆすいで磨いて瓶を綺麗に見せるのも、店との交渉も、おまえの仕事だ。出た利益は全部こづかいにしていい……どうだやるか?」
「いいの?!」
 ジンは留守番期間はウィルに雑用やハウスキープの仕事を任せ、下男程度には賃金を払っている。ただいつも旅についてくるほうが多いので金は簡単にたまらないし、彼の欲しい本は高い。ウィルはこの話にくいつく。
「ガワを集めているわけではないからな、少しでも片付けてくれるなら助かる。ただし、持ってく瓶の数を欲張るのはやめたほうがいい、重たい」
「ジンさん」
「ん」
「ヴィンテージって何?」
「さぁ……選ぶのもお前の仕事だ」


 
2015.09.09/下書き2015.08.29
つづき→http://kokogatirashinouraka.tumblr.com/post/129359157302(pass:uwaaaa)