自己嫌悪の話

 旅に時々ついて行きはじめてから二年経った。

 立ち寄る町の人々の生活の中の言葉や言い回しや暮らし、常識のようなものを覚えていくうちに自分が何をされてきたのか理解し、そして居たたまれなくなった。
 ジンさんと二人暮らしの中だと彼から人の生きる生々しさ、性欲、好奇の目や笑いなんてものとは一切感じることは無いのでその惨めさなんてものが気になることなんてなかった。只、多くの、一杯いる人、普通の人はそういう人ばかりじゃないという事が分かってきてしまった。

 私は色々違う、間違っている。背中の火傷の痕は醜い、更に体の下を見られれば眉をひそめ軽蔑されるか、哀れに思われるだろうし、嘲笑される、そもそも人でもない。
 こんなおかしい自分をジンさんは連れていてなぜ平気なのだろうか、とても迷惑をかけていると悩んだ。
 怖いけれど聞かないともっと苦しくなってきた。

 ある野宿をした夜、焚き火を倒木に並んでジンさんと二人であたっている時にその悩んでいることを伝えようとした。上手く考えが言葉にまとまらず何を言っているのか自分でも混乱してきた、ちりぢりにだけれど全部吐き出し話した。
 ジンさんは黙って聞いていて、私が話し終わったとみると小さな声で話しかけてきた。

「お前はあれが嫌だから必死で逃げたんだろう?」
 うなづく
「ならいいじゃないか」
 よくない、起こった事はこうして自分の体に傷として残っている、ひどくみじめだと伝えた。
「惨め、ね」
 ジンさんは煙草道具の入った子袋からパイプを取り出し指で葉を詰め、前に体と腕を伸ばしパイプに火を入れる。
「……早く逃げたかっただろう」
 自分がきもちわるく無いのかと聞いた。
 拾った枝で葉を押し再び火を拾い、葉が十分燻されたパイプを咥えながら答えた。
「至極どうでもいいな……。ウィル、強くなれよ、もっと、多くの理不尽から早く逃げられるように」
 ジンさんはこちらを向き手を顔に近づけ頬を包むようにそっと触れる。パイプを咥え見つめる顔は無表情のまま淡々としているが瞳だけは力が篭もっていた。
 いつになく優しい、というより異様な姿に動揺してしばらく黙り込んだ、絞り出すように一言だけ「はい」と返事をした。
 返事を聞くとジンさんは納得したようにすっと手を引き焚き火に体ごと前に向き直った。  この人は横顔がいつも寂しそうだと思う。


 
2015.07.26/下書き2015.01.20
フル版→http://kokogatirashinouraka.tumblr.com/post/130208907242(pass:uwaaaa)