白い狩人

妖魔狩人の技術は各々の家で代々伝えていく
一子相伝だったけれど近頃数が減っているので養子、実子複数を狩人にすることもある。


 その男に初めて会ったのはお互いの親、師が顔合わせをして狩りの打ち合わせでもしているときだった。まだお互い子供だった。
 オレは相手の狩人の腕前も気になるし、共闘で狩が行われることに立ち会うのは初めてだったので席にも着かずにソワソワ見回していたしていた。
 相手の子はフードを被った陰気なヤツでオレにもオレの親にも自分の親にも全く興味ないように椅子に腰かけ指を組み下を向きみじろきひとつせず待っていた。

 二回目は親が狩りを辞め、オレが独り立ちして三年目だった。
 赤いマントを着けた狩人が安く狩りを請け負い回り困るという話題が狩人仲間で話題になった。見つけ次第注意でもしてやろうという話になり、仲間内で最初にそいつに出会ったのがオレだった。
 白い外套に赤いマント、そして頭巾を被りひどく陰気だった。オレは子供の頃のあの姿と彼の親の家の名前思い出し尋ねるとやはりそうだと言う。
 そして狩りの値を崩した事を彼に問い詰めると、どうしても旅の日銭がほしくて依頼人とろくに交渉できなかった、もう二度としないと彼は素直に謝った。
 それ以来彼の悪いうわさは聞かなかった。

 三度目は狩りの仕事で一緒になった。彼の腕は確かなようで、特に広範囲から妖魔を正確に見極め探す技術は抜きん出ていた。
 思っていたより格段に仕事が終わり気分が良かったので、酒をおごると次の旅へ急ぐ彼の足をしぶしぶ止めさせ夕方の酒場へ連れ込んだ。
 カウンターの奥へ座ると彼は白い頭巾をとった、まだ若い体躯と顔に似合わない真っ白な髪だった。もちろん驚いたが子供の頃と、今もずっと頭巾を被っている理由にむしろ納得がいきすっきりした。
 旅のルートだとか、今どの地方に妖魔がおおいだのを飲みつつお互いぽつりぽつりと話し、夜がふける頃には別れた。

 それ以来、顔を合わせるたびに彼とは酒でも飲みつつ情報交換している。
 ある山道ががけ崩れでだめになっただの、腕のいい研ぎ屋があるなど、どこでどんな狩をしたか……お互いそんなことをただ話すだけ、彼は飲んでも無愛想で陰気なままだがそれでもその関係が不思議と続いている。

そんな彼の噂話を耳にした。

 彼にちょうど会ったある日、酔いが回り始めた頃にその話をタネにした

「弟子をとったってのは本当か?」
「何の事だ」
「赤いマントの子連れの狩人が居るって聞いてお前しか思い浮かばない」
「……俺の姿の真似でもしてる奴でもいるんじゃないか、別人だ」
 なんだぁ〜やっと嫁でももらったかと思ったのに、姿を真似されるような道化みたいな派手な姿してる方が悪いといえば悪いなぁと笑ったが、怒りもせずただ目をつむり「そうだな」と彼は答えた。
 その姿にこちらのバツがわるくなった。
「あんたは弟子をとったのか」
「二人な、実子だ、一子相伝なんて古い」
「そりゃいい、俺の分までたくさん育ててくれ」
 酔いが回ったのか彼は真っ白い髪の毛をかきあげ初めてほんの少し笑ったようにそう話した。
「……お前はその腕をつがせず、もったいなくはないのか」
 その質問をすると顔が暗に切り替わり髪をかきあげる手が止まった。
「ゆるせない」
「ん?」
「俺は妖魔狩りのことで出来の悪い弟子を決して許せない―……

彼はその先の言葉を切ったがオレは気軽にいまの質問をした事を後悔するぐらいその無表情に背筋が凍った。彼はおそらくとった弟子を全員殺してしまう。


 
2015.06.06
ジンにとって狩りは仕事ではなく自分の存在のプライドそのもの