狩の情景 その1

ジン……妖魔狩人の男、人間、白髪、無愛想
ウィル……ジンが拾った半妖の少年、言葉がやや不自由だが素直


 ウィルが旅についてくるようになり一年経った。

 依頼の手紙が来た町や、その旅の道中に直談判の依頼のあった村に着くとジンはウィルに紛らわしいからついてくるな、町の外に居ろ、と強く言った。

 実際は紛らわしくもないし、相対的に“本物”がどのあたりにいるかよく分かるので連れて行く利点はおおいにあったが変な噂でもたつというのと、同職に鉢合うと面倒なのでそう言っていた。
 ただ、探すのに日数のかかりそうな人の多い大きい町や、真夜中、治安の悪い物騒な辺りでは彼にそうも言えずなるべく宿屋に居るように言っていた。

 言ってはいたがそれでもたまにウィルは町に狩りに出るジンを尾行していた。一応気配を殺すようなことをしていはいるがジンは彼の気配が位置までだいたい分かる。一度その行為をいさめようとも思ったが、普段から素直でジンの言いつけをかたくなに守る彼の唯一のわがままだと思えばこちらの邪魔をされるわけでもなく、許しようもあったし、ジンは許していた。

 ジンは見ていて何が楽しいのだろうかと妖魔を殺した後、その様子を家屋の煙突の影から隠れてみていたウィルを撒き、その背後から肩を掴んだことがある。
 ウィルは思い切り腰を抜かし謝った、ジンが見に来る理由を彼に聞いても答えずただ謝るばかりだった。
 なので深くは聞かず「手を出すな、町人や妖魔にも見つかるな、他の狩人が居るときは絶対に来るな」ときつく叱った。

 ジンの旅についていくようになり、一年経った。

 爪の向けられた身をひるがえし一閃すると妖魔の腕が身から離れ怯む間に蹴り飛ばし仰向けに倒すとその額に剣を二度、三度突き立て息の根を止める。

 屋根に上り逃げてゆく四足の魔獣のような妖魔にも確実に追いつきその背から心臓に剣をつきたて息の根をとめる。

 噛み付きに来た妖魔がすばやくかわせないと判るとその口に皮を巻いた左腕を思い切りねじ込み歯をへし折る自分の腕から血が出るのもかまわずその勢いで壁にぶつけ妖魔が再び身を構える前にその首を跳ね飛ばす。

 室内で狩が行われ見えないときもあったが、ジンは体の倍もある相手にも自身の怪我にも全く怯むことなくいつでも何処でもただ狩を行っていく、ウィルはその異常な気迫に時々どちらが化け物か分からなくなる時があった。
 なので、夜中に狩を見ていたことがジンにばれていきなり肩を掴まれた時は深くフードを被っている姿と合わせて物語の中に出てくるファントムのように見え身の毛が逆立ち腰を抜かした。
 それでも声を聞けばいつもどおりのジンだったので安心した、手を差し伸べ立ち上がらせてもらうと、その後きつく怒られた。


 
2015.05.31