狩の情景 その2

ジン……妖魔狩人の男、人間、白髪、無愛想
ウィル……ジンが拾った半妖の少年

※妖魔はあいまいで不定なところも含めてグルーのイメージ


 妖魔狩人の仕事は妖魔の気配をさがして歩き回り居る場所を見つけて殺す、これだけ、もちろん獲物は見つかったと気づけば抵抗する。

 牙をむいてくるか、逃げるか。

 妖魔は爪や牙を持ち顎が異常に発達した化け物の総称で、均一ですべてが同じ姿というわけではない。
 毛皮があったりなかったり、歯の並びも個体によってちがう、二足歩行か四足、夜に人を食らい人に化けることが出来る化け物。
 妖魔は複数匹で群れることもある、たいていは似た容姿で、まさに群れ、なのかもしれない。それがやっかいな場合は狩人もまた一時的に狩人同士手紙で連絡をとりあい群れて狩を行う。

 多脚で異形の化け物、小山のような大きさで討伐の逸話が今にまで残る化け物、そんな妖魔も古くはいたと言われている。少なくとも今は居ない。

***

 ジンが依頼主と話をする前、村に着いたとたん村人の誰かが血相を変え逃げ出したという、ジンはウィルに旅荷を渡し「追ってくる」と一言告げ、逃げた山の中に走っていった。

 村のはずれ、ジンが出て行った所でウィルは旅荷を抱きしめ待っていた。村人はそのウィルと狩人が消えた山を何度か見に来ていた
 追っていったのは昼頃の事で、夕方にさしかかる前にジンは帰って来た、報酬をもらう証拠につたでくくり上げた妖魔の首を左手に下げながらウィルの待つ場所へ歩いてくる。
「昼でよかった、夜だと追うだけで精一杯だった」
 そう言うジンのブーツは泥まみれで服や体には枝での擦り跡、外套に付いているマントには穴が開いていた。


 小さい村では旅人が立ち寄るだけでも妖魔はカンづき今日のように逃げ出すか、または狩人を殺しにくる。
 殺しに来る妖魔よりも、逃げて行く妖魔の方が狩人にとっては迷惑だった。
 逃げて行く妖魔は殺しに来る妖魔よりも体が弱い、走る速度も力も低い、それでもたいていの狩人は追いきれず諦め逃がしてしまうことが多い。

***


 狩人に見つけられたとき牙をむき殺しに来る妖魔が一番多い。
 身を守るため、退けるために戦うのではなく、狩人に確実に殺意をもって襲い掛かる。狩人が諦め、逃げ引いても執拗に追ってくる。それこそ立場が逆になる。
 人は怪我をすれば痛ければ簡単に諦める、好戦的な妖魔は戦いが始まれば重傷を負っても自身か狩人が死ぬまで決して引かない。


 逃げず牙もむかずに殺される妖魔も居る、流れ者や旅人が来ても珍しくない、おおきい集落や町ではそれが成り立つ。
 妖魔狩人は妖魔が人間の姿のまま切り殺す。店先や、家の中に押し入って賊さながらにいきなり人を切り殺す。
 一番安全な狩りだけれど人の姿に致命傷を与える、ジンの場合は首をはねる。
 側に人が居たならあたりに悲鳴や怒声がひびく。人に化けた妖魔は死ぬと姿が獣に戻る、ほんの一、二分。
 その間、化けられていた人の身内は惨事に悲鳴をあげて何度もその人の名を呼び妖魔の頭を抱いて揺さぶる、たいてい徐々に獣になっていく頭にあっけに取られ放心し静かになる。
 気がふれて姿が化け物になっても決して事実を認めず、諦めず、狩人に泣きわめき呪いを吐いて暴力に訴える者も居る。
 また、その一、二分は確かに妖魔狩人は人殺しで間違いなく、兵や正義漢に取り押さえられたり斬りつけられることもある。

 人から身を守る、対人の技術も妖魔狩人には大切だった。